⚠️ 【厳重注意:致命的なネタバレを含みます】
本記事は、島田荘司氏の推理小説『異邦の騎士』における最大のトリック、事件の真相、および結末に関する重大なネタバレを含みます。 まだ本作を読んでいない方、これから島田氏の作品に触れようとしている方は、今回ばかりは絶対にこの先を読まないでください。 素晴らしい読書体験を損なう恐れがあります。
島田荘司先生の処女作とも言われる本作は、ミステリとして数多くの読者を驚愕させ、そして深く涙させた傑作だ。
かくいう僕もその一人で、御手洗潔シリーズの作品をいくつか読んだ上で本作を手にとることができたため、一番良い体験ができたと言える。
この『異邦の騎士』は、名探偵・御手洗潔シリーズの原点ともいえる物語だ。これまでのストーリーが一つに繋がる、圧倒的なカタルシスを味わうことができる。
今回は、この物語が迎える喪失と再生のカタルシスの情景に、日本のポストハードコア/ポストロックシーンの重鎮、envyの『Rhythm』という楽曲を合わせて紹介したい。
💡 読者への案内
ここからは、ぜひ下の楽曲を再生しながら読み進めてみてください。異邦の騎士の圧倒的なカタルシスはenvyの『Rhythm』がもたらす癒しの風により情景が彩られるだろう。
🎧 この圧倒的な音を、最高の解像度で。
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作られた記憶と、哀しき復讐劇
物語の主人公は、すべての記憶を失った男だ。
彼は今回の事件の黒幕により、巧妙に記憶をすり替えられる。存在さえしない「自分の妻と子供が殺害された」という凄惨な偽りの記憶を植え付けられ、復讐という破滅の行動へと意図的に誘導されていく。
しかし、完璧に思えたこの計画には、犯人にとって致命的な誤算が二つ存在した。
一つ目は、御手洗潔という男が介入したこと。彼は主人公との出会いからすぐさま違和感を察知し、悲劇を阻止すべく奔走する。
そして二つ目は、主人公を監視するために近づいた犯人の妹・良子が、主人公を心から愛してしまったことだ。主人公と過ごした数ヶ月の生活は、彼女にとって紛れもない「幸福」だった。愛した人が利用され、犯罪者になってほしくない。それはごく普通で、あまりにも切実な感情だった。
愛による破綻と、憑き物が落ちる瞬間
それでも主人公は、頭に植え付けられた(偽りの)記憶と、良子との生活を守るために復讐の引き金を引こうとする。
しかし、体を張って彼の行動を止めた良子と、御手洗の存在により、その復讐劇は失敗に終わる。そして、その結果として良子は命を落としてしまう。
主人公にとっては自分の正義を貫くための行動だった。しかし御手洗によって、その「作られた記憶」の構造が丁寧に解体され、やがて主人公は自分の過去がすべて紛い物であったことを理解する。
さらに、良子はいずれ起こる悲劇を予感し、主人公へ宛てた手紙を残していた。彼女の深い愛情が綴られたその手紙によって、主人公の脳内にこびりついていた偽りの記憶は、静かに洗い流されていく。
この時、主人公はついに自分の「本当の名前」を取り戻すことになる。石岡和己。のちに御手洗の親友となる男だ。
京極夏彦氏の作品では、謎が解けすべてが解消する瞬間を「憑き物を落とす」と表現するが、この『異邦の騎士』の終盤では、主人公である石岡だけではなく、読者自身の憑き物までもが完全に払われるような、凄まじい浄化の体験が待っている。
『Rhythm』が鳴らす、喪失と再生の轟音
復讐心を解き放たれ、本来の自分を取り戻した石岡。しかし同時に、彼は最愛の良子を永遠に失った。
絶望と救済が入り混じるこの起伏の激しい感情の揺さぶりに、envyの『Rhythm』という楽曲の優しい音が、痛いほどにリンクするのだ。
この曲には、Ropesのachico氏がゲストボーカルとして参加しており、包み込むような優しい声で歌い上げられている。そして、トレモロピッキングで奏でられるクリーントーンのギターには深いリバーブがかかり、美しく空間に響き渡る。
僕にはこの『Rhythm』の序盤の静謐な響きが、石岡が良子の手紙を読みながら、彼女と過ごした幸福な数ヶ月を懐古している情景に思えてならないのだ。
そして曲の中盤、重厚なディストーションサウンドが一気に響き渡り、感情が激しく昂る。
普通、ポストハードコアの轟音は怒りや絶望を表現することが多いが、この曲が放つ轟音は「浄化」のカタルシスだ。あれほど燃え盛っていた復讐心が御手洗によって解き明かされ、憑き物が落ちたかのような晴れやかな気持ちが石岡にあったのだとすれば、この圧倒的な音の壁こそが、その巨大な感情のうねりと完全に一致する。
曲の終盤は、静かなギターのアルペジオだけが残り、ゆっくりと余韻を残して消えゆく。
それはまるで物語のエンディングにふさわしく、良子を失った悲しみを抱えながらも、これから長い付き合いとなる友人・御手洗潔と共に歩み出す石岡の心を、優しく洗い流しているかのようだ。


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© 島田荘司 / 講談社


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