真理の探求と心の幻影――『アサシン クリード ミラージュ』知恵の館に立ち込めるOMの呪術的サイケデリア

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真理の探究と心の幻影。アサシンクリードミラージュの知恵の館に立ち込めるOMの呪術的サイケデリア。 Music × Game

⚠️ 【ネタバレ注意】
本記事は『アサシン クリード ミラージュ』のストーリーの核心、および登場人物に関する重大なネタバレを含みます。未プレイの方はご注意ください。

9世紀、西暦860年頃のバグダッド。それは当時、間違いなく「世界の知の中心」であった。

『アサシン クリード ミラージュ』では、この黄金時代のバグダッドが息を呑むような美しさで再現されている。当時のカリフ(指導者)によって世界中から数学、医療、そして天文学の叡智が集められた学問の最高峰「知恵の館(バイト・アル=ヒクマ)」もその一つだ。

アサシンクリードミラージュの知恵の館にあるラクダの図とおそらく天体を書いた図面。9世紀バグダッドの進歩が垣間見られる。
アサシンクリードミラージュの知恵の館にあるラクダの図とおそらく天体を書いた図面。9世紀バグダッドの進歩が垣間見られる。

主人公であるバシムは、幼馴染のネハルと共に、この知恵の館を拠点とする結社の「学士(アル=ラビス)」を暗殺すべく潜入することになる。

今回は、この知恵の館と巨大な天文台が放つ神秘的な情景に、アメリカのサイケデリック/ドゥームメタルの異端児・OM(オム)の楽曲『Addis』を重ね合わせてみたい。そこには、二つの「歪み」が交差する強烈なトランス空間が広がっている。

💡 読者への案内
ここからは、ぜひ下の楽曲を再生しながら読み進めてみてください。バグダッドのオリエンタルな世界を考察するにはOMの『Addis』を聴きながら。呪術的なサウンドがより一層情景を深めてくれるだろう。

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天空の真理と、世界観の「歪み」

今回の情景を読み解く一つ目の要素は、前回の記事で取り上げた『アサシン クリード ヴァルハラ』の舞台、イングランドとの比較だ。

霧に沈む失われた古の知識――『アサシン クリード ヴァルハラ』ストーンヘンジとRed Sparowesの轟音
巨人の仕業と恐れられた遺跡の真実。『アサシン クリード ヴァルハラ』の霧深きストーンヘンジを見上げるエイヴォル。その圧倒的なスケールと虚無感を、Red Sparowesの轟音と唐突な静寂が描き出す。ゲームの景色を深めるエモーショナルな考察です。

時系列的に、ミラージュはヴァルハラよりも前の時代を描いている。しかし当時のイングランドに住むアングロ・サクソン人やヴァイキングたちは、夜空の星について「神々が作った屋根」や「神話の火花」といった教えを信じており、科学的な根拠は全く持っていなかった。かつて栄華を誇ったローマ帝国の遺跡が足元にあるにも関わらず、文明は完全に停滞していたのだ。

対して、それより過去であるはずのバグダッドでは、すでに天動説を基盤としながらも「地球が球体である」ことを把握し、高度な天文学が研究されていた。知恵の館に置かれた巨大な混天儀がそれを物語っている。

バグダッドにある天文台屋上に設置された渾天儀。この世界が球体であることに9世紀に辿り着いていた。
バグダッドにある天文台屋上に設置された渾天儀。この世界が球体であることに9世紀に辿り着いていた。

この同時代における「知の逆転現象」は、プレイヤーに激しい目眩い(めまい)のような錯覚を引き起こす。アラビアが日進月歩で宇宙の真理に近づいていくそのスケールの大きさが、一つ目のサイケデリックな歪みだ。

虚空に語りかける暗殺者と、自己の「歪み」

そして二つ目の要素が、共に潜入する幼馴染・ネハルの存在である。

物語を進める中で、プレイヤーは残酷な真実に直面する。ネハルという存在は、バシムの心が無意識に生み出した「幻影(イマジナリー・フレンド)」だったのだ。

知恵の館という、この世界で最も論理的で「真理」を探求する神聖な場所において。バシムは存在しない人間と協力し、虚空に向かって語りかけながら暗殺を実行していたことになる。

宇宙の真理に触れる場所で、バシム自身の真理(精神)は完全に破綻している。この決定的な違和感と狂気こそが、二つ目の歪みである。

サンダルウッドの香りと『Addis』のマントラ

この「世界観の歪み」と「自己の歪み」が交差する知恵の館の情景に、OMの『Addis』は恐ろしいほど完璧にシンクロする。

OMは、ドゥームメタルの伝説的バンドSleepのメンバーによって結成されたバンドだが、この『Addis』という楽曲に、ポストロックやメタル特有の激しいギターのディストーション(歪み)は一切ない。

聴こえてくるのは、地の底から這い上がってくるような重低音のベース、タブラのような乾いたパーカッション、そしてひたすらに反復される女性の呪術的なマントラ(詠唱)だけだ。

音の波に身を委ねていると、まるで知恵の館の薄暗い回廊に、濃厚なサンダルウッドの香りが充満していくかのような錯覚に陥る。

物理的な楽器の歪みではなく、空間そのものを歪ませるようなこの宗教的でサイケデリックなサウンドは、高度な天文学がもたらす「宇宙の果てしなさ」と、バシムが抱える「精神の破綻」という二つの狂気を優しく、そして不気味に包み込んでいくのだ。

おわりに

9世紀のバグダッドが到達した叡智と、一人の暗殺者が抱えた孤独な幻影。

『アサシン クリード ミラージュ』の知恵の館を探索する際は、ぜひOMの『Addis』をバックグラウンドで流してみてほしい。

そこにあるのは、単なるゲームのミッションではない。延々と繰り返されるマントラの響きの中で、自分が今立っている現実がゆっくりと溶け出し、宇宙の深淵へと引きずり込まれていくような、至高のトランス体験があなたを待っているはずだ。

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