この旅について
この記事は、『エヴァーグレイスII』の攻略法や物語を詳細に解説するものではない。
ここで取り上げたいのは、夕焼けに染まった「綿毛の草原」という情景と、Mogwaiの楽曲『2 Rights Make 1 Wrong』について。ゲームの核心に触れるようなネタバレはないので、安心してほしい。
ひとつの音が、長い時間を飛び越えてゲームの風景をふと呼び戻すことがある。今回は、そんな不思議な記憶のつながりを、ゆっくりと辿ってみたい。

エヴァーグレイス?聞いたことないなぁ。もちろんMogwaiの『2 Rights Make 1 Wrong』は知ってるけどさー。

音から戻ってきた風景
音楽を聴いていると、もう長いあいだ思い出すことすらなかった景色が、不意に目の前へ戻ってくることがある。
僕にとって、そのひとつが『エヴァーグレイスII』だった。
このゲームをプレイしたのは、PlayStation 2がまだ現役だった頃のことだ。物語の細部や交わされたセリフのすべてを、今でも鮮明に語れるわけではない。それでも、この作品だけが纏っていたあの独特な空気感は、ずっと僕の中に静かに残り続けていた。

PS2って・・・。さすがにアタシは知らない世代だよ・・・。
それから随分と年月が過ぎ、Mogwaiの『2 Rights Make 1 Wrong』を聴いていたときのことだ。
反復するギターの向こうから、いくつもの音が波のように重なってくる。曲が後半へ差しかかった頃、その音の渦の中へ、ふと「バンジョー」の響きが入り込んできた。
ポストロックの分厚い音像の中では、どこか場違いにも思える乾いた音。
けれど、その音が鳴った瞬間、僕の脳裏には一面の草原が鮮やかに広がっていた。
白い綿毛が風に揺れ、その一部が空へ向かって舞い上がっていく。
それは間違いなく、『エヴァーグレイスII』の「綿毛の草原」だった。
『エヴァーグレイスII』という異質な世界
『エヴァーグレイスII』は、2001年にフロム・ソフトウェアから発売されたRPGだ。
後年のフロム・ソフトウェア作品とはまた違った手触りを持ちながらも、簡単には言葉にできない「世界の質感」のようなものは、この頃からすでに色濃く漂っていたように思う。
静寂に包まれた宮殿や神殿。どこか輪郭のぼやけた場所。だだっ広い空間の中にポツンと置かれた、少し心細くなるような道。
その世界は、「壮麗なファンタジー」という言葉だけでは到底収まりきらない。美しいのに落ち着かず、寂しいのに不思議と離れがたい。僕たちが知る常識から少しずつピントが外れていくような、奇妙な感覚があった。
そして、その感覚を決定的なものにしていたのが、星野康太氏による音楽だった。
本作の音は、分かりやすくプレイヤーの感情をナビゲートしてくれるものばかりではない。
加工された不気味な声。民族音楽を思わせる旋律。人工的で冷たい打楽器。どこへ着地するのか分からない、不安定な音の重なり。
初めて耳にしたときは、ゲームの風景から音が少し浮いているようにも感じた。けれど、しばらくその世界を歩き回っていると、いつの間にか「その音以外では絶対に成立しない場所」になっていることに気づく。
『エヴァーグレイスII』は、景色と音楽の双方が影響し合うことで、現実との間に絶妙な距離を作り出していたのだと思う。

聴いてみたんだけどさ、アタシ結構好きな音楽だったよー。
夕焼けに染まる「綿毛の草原」
山影の向こうへ、夕日が沈もうとしている。
空は深い赤から橙色へとグラデーションを描き、低く立ち込めた雲の縁まで燃えるように染まっている。その光を受けた湖は、まるで溶けた金属のような黄金色の照り返しを放っていた。
湖へと続く道の両側には、白い綿毛がどこまでも果てしなく広がっている。
丸い綿毛の一つひとつが夕日を浴びて明るく浮かび上がり、その間を白い粒がゆっくりと漂っていく。橙色に染まった木々と暗い岩の向こうにも、同じように草原が続いている。
これほど明るい場所なのに、人の暮らしの気配は遠く及ばない。
確かに風が吹いているはずなのに、景色全体が時を止めているようにも見える。
実は、僕の記憶の中では、ここには青い空が広がっていたはずだった。
けれど、あらためて当時の映像を見返してみると、空は赤く、草原も湖もすべてが夕焼けの色に沈んでいたのだ。
覚えていた色は違っていた。
それでも、「何かが空を舞っていたこと」と、「そこが現実から切り離されたような場所だったこと」だけは、僕の中に確かな手触りとして残っていた。
記憶というのは、景色を写真のようにそのまま保存しているわけではないのかもしれない。
色や形を少しずつ変容させながらも、その場所で感じた「空気」だけを、長いあいだ大切に残しているのだろう。

あー。そういやSG-Walkerってやけに夕方が好きだよね。青空だと思ってたって勘違いはあったかもだけど、綿毛の草原が夕方っていうのはそういう印象が強く残ってたのかもしれないね!
世界に馴染まないはずの音
『エヴァーグレイスII』の音楽には、整いすぎていないいびつな魅力がある。
一般的なRPGに期待される勇壮さや叙情性からは意図的に外れ、声や打楽器、電子的な響きが、互いに少しずつ歩幅をずらしたまま進んでいく。
その強烈な違和感は、最初からすんなりと受け入れられるものではない。
けれど、その異質な響きを抱えたまま世界を歩いていると、やがて景色の見え方までが変わってくる。宮殿も神殿も草原も、ただ美しくモデリングされた場所ではなく、どこか全く別の原理で動いている異界に思えてくるのだ。
音楽が風景を説明しているのではない。
風景と音楽が、互いの違和感を認め合い、共鳴するようにして、ひとつの世界を構築している。
だからこそ僕の中には、特定のメロディラインだけでなく、「このゲームには、他のどこでも鳴っていない音があった」という強烈な感覚だけが残ったのだと思う。
『2 Rights Make 1 Wrong』で、バンジョーが鳴る
Mogwaiの『2 Rights Make 1 Wrong』は、2001年に発表されたアルバム『Rock Action』に収録されている。
静かなギターの反復から幕を開けるこの曲は、同じ場所をぐるぐると巡りながら、少しずつその景色を変えていく。
ドラムが確かな流れを作り、声や管楽器、弦の響きが幾重にも重なっていく。音の数が増えても、前へ前へと突き進むというよりは、見えている地平線が少しずつ遠ざかっていくような、不思議な広がり方をする。
そして後半、いよいよバンジョーが入ってくる。
その乾いた弦の響きは、それまで積み重ねられてきた音とは明らかに質感が違う。素朴で、軽やかで、思わず手で触れられそうなほど生々しい音だ。
本来なら、大きく壮大に広がった曲の空気を壊してしまってもおかしくない。
ところが、実際に鳴ってみると、そのバンジョーこそが曲の中心にずっと存在していたかのように聞こえてくる。異物だったはずの音が、気づけば曲を完成させる「最後の輪郭」としてピタリと嵌まるのだ。
僕が『エヴァーグレイスII』を思い出したのは、決して旋律が似ていたからではない。綿毛の草原で流れるBGMと、Mogwaiのこの曲が直接的に似ているわけでもない。
それでも、あのバンジョーが入ってきた瞬間、僕は『エヴァーグレイスII』の音楽が持っていたあの愛おしい「違和感」を、鮮烈に思い出したのだ。
違和感が、風景を完成させる
その風景には、一見似つかわしくないはずの音がある。
けれど、実際にその音が鳴り響いてみると、「その音なしでは風景が完成しない」ことに気づかされる。
『エヴァーグレイスII』と『2 Rights Make 1 Wrong』の間にあるのは、音色や旋律といった表面的な一致ではない。
「異質な音を排除せず、そのまま世界の一部へと変えてしまう」という、深い部分での感覚の共鳴だ。
加工された声や不安定な打楽器が、『エヴァーグレイスII』を他のRPGとは違う特別な場所にしたように。バンジョーの乾いた響きが、Mogwaiの曲を他の何にも置き換えられない名曲にしているように。
違和感は、世界から浮いている音ではなかった。
むしろ、世界の境界線をこちらから少し遠ざけ、日常から引き離してくれる音だったのだ。
だからこそ、そのバンジョーを聴いたとき、僕は現実から遠く離れたあの草原へと引き戻されたのだと思う。
夕焼けに染まった空。
黄金色に光る湖。
白い綿毛が風に揺れ、その一部が空へ向かって舞い上がっていく景色。
ゲームを遊んでからどれほど長い時間が過ぎても、音の中には、まだあの場所へ続く秘密の道が残っていたのだ。

アタシは結構こういう風景は好き!エモいよね?!
この風景を、Sennheiser HD 599で聴く
『2 Rights Make 1 Wrong』は、ひとつの音だけを単調に追う曲ではない。
反復するギターの周囲へ、ドラム、声、管楽器、弦、そしてバンジョーが少しずつ加わり、曲の中に広大な景色を構築していく。
『エヴァーグレイスII』の音楽もまた、異質な音が重なり合うことで、現実から遠く離れた世界を形作っていた。
この二つの音をじっくりと辿るなら、開放型ヘッドホンの「Sennheiser HD 599」は、その広がりと重なりを最も心地よく感じられる再生環境のひとつになるはずだ。
開放型が作る、草原のような広がり
HD 599は、ハウジングを密閉しない開放型ヘッドホンだ。音を耳のすぐそばへ窮屈に閉じ込めるのではなく、周囲へ自然に広がっていくような空間の広さを感じやすい。
『2 Rights Make 1 Wrong』では、反復するギターの向こうへ音が次々と積み重なり、曲の視界が少しずつ開けていく。開放型ならではの音場は、その奥行きを潰すことなく、ひとつひとつの響きが空間へ溶けていく感覚をしっかりと支えてくれる。
夕焼けの下に続く綿毛の草原を思い浮かべながら聴くとき、この「余白」は非常に大きい。音が近くで鳴るだけではなく、遠くの湖や山影まで広がっていく。そんな没入感のある聴き方が、この曲にはよく似合う。
異質な音の「居場所」を見せる解像度
HD 599には、音を耳へ自然に導くSennheiser独自のE.A.R.(Ergonomic Acoustic Refinement)技術が採用されている。
今回大切なのは、低音の量感や迫力だけではない。ギターがどこで反復し、声や弦がどこへ重なり、後半のバンジョーがどの位置から姿を現すのか。その関係性を立体的に追えることで、異質だった音が「曲の一部」へと変わる瞬間を、より丁寧に味わうことができる。
『エヴァーグレイスII』の加工された声や不安定な打楽器も同じだ。すべてをひとつの塊として聴くのではなく、それぞれの音が少しずつずれながらも同じ世界に存在している。その配置が見えてくると、奇妙さの奥にある景色までより深く感じ取れるようになる。
長い時間、世界へ留まれる装着感
HD 599は、大きなイヤーカップと柔らかなベロア素材のイヤーパッドを備えている。
『2 Rights Make 1 Wrong』のように、急いで結論へ向かわず時間をかけて景色を変えていく曲は、途中だけを切り取るより、最初から最後までひとつの流れの中で聴き通したい。
ゲームの音楽もそうだ。一曲を少し聴いて終わるのではなく、その世界を歩きながら長く付き合うことで、初めて印象が変わっていく。
耳を強く密閉しない開放型の構造と、肌当たりの柔らかなイヤーパッドは、そうした長時間の没入を優しく支えてくれる。音を分析するためだけではなく、「もう少しこの世界に留まっていたい」と願うときのヘッドホンなのだ。
夕焼けの余韻を残す、アンバー
この草原の情景に香りをひとつ添えるなら、僕は「アンバー」を選びたい。
今回手にしたのは、マンデイムーンの「アンバー・エッセンシャルオイル」。メーカーの案内によれば、化石化した樹脂から抽出された、スモーキーでウッディな香りだという。
一般的な香水で使われる、甘くまろやかなアンバー調の香りとは少し毛色が違う。
古い木や樹脂、その奥底にかすかな煙の匂いを感じるような、ずっしりとした重さのある香りだ。
夕焼けの草原に置くには、少し重すぎるのではないかと思われるかもしれない。
けれど、その「小さな違和感」があるからこそ、僕はあえてこの香りを選びたい。
白く軽い綿毛の向こうには、沈みかけた太陽の確かな熱がある。明るい黄金色の下には、夜へ向かう深い影が潜んでいる。アンバーの樹脂質な香りは、その風景が内包する温度と陰影を、ゆっくりと部屋の中へ残してくれる。
アンバーは揮発の遅いベースノートでもある。
他の香りが薄れ去ったあとも静かに残り続けるその性質は、細部を忘れてしまっても決して消えることのなかった、あのゲームの風景によく似ている。
部屋を香りで強く満たすのではなく、「部屋のどこかに夕焼けの温度がそっと残っている」。それくらいの距離感で、『2 Rights Make 1 Wrong』を流してみてほしい。
おわりに ― 音が連れて帰る場所
『エヴァーグレイスII』について、僕が記憶していたものは正確な映像ではなかった。
空の色は変わり、物語の細部も記憶の彼方へと遠ざかっていた。
それでも、Mogwaiの曲の中でバンジョーが鳴ったとき、あの綿毛の草原は確かに僕の目の前へ戻ってきた。
記憶の中に残る風景には、必ず「入口」があるのだと思う。
それは誰かの名前かもしれないし、ふと嗅いだ香りかもしれない。あるいは、何気なく耳にしたひとつの音かもしれない。
僕にとって『2 Rights Make 1 Wrong』は、忘れかけていたゲームの扉を開く、大切な鍵の音になった。
曲が後半へ進み、乾いた弦の音が聞こえてくる。
その向こうで、夕日は今も山影を赤く染め上げている。
黄金色の湖のそばでは、一面の綿毛が風に揺れている。
そして白い綿毛は、止まっていた時間を静かにほどくように、ゆっくりと夕空へ舞い上がっていくのだ。

Mogwaiとエヴァーグレイス。正直アタシは全然結びつくわけないじゃん、って思ってたけど、最後まで読んだら、なんとなくわかっちゃったなぁ。音って、忘れてた景色まで連れて帰ってくるんだね。
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