『Horizon Forbidden West』の世界を歩いていると、ふとした瞬間に僕たちがよく知る文明の痕跡と出くわす。崩落したビル群、赤錆にまみれた鉄骨、アスファルトを突き破る無数の植物。そこに暮らしていた人々も、築き上げられた文明も、とうの昔に遠い過去の話となった。
けれど、すべてが消え去ったわけではない。かつて「ロサンゼルス」と呼ばれた場所。その緑に覆われた山肌には、今なお巨大な文字が不器用に立ち尽くしている。
HOLLYWOOD
かつて世界中の人々が夢を抱き、集まった場所の名前だ。

ハリウッドって言ったら映画の街だよね!ハリウッド映画はアタシ、結構見たりしたし!
今回、この朽ちゆくハリウッドサインの情景に重ねたいのは、Russian Circlesの『You Already Did』。いくつもの表情を見せながら激しく通り過ぎていく音と、そのあとに残される静かな余韻。
映画も、スターも、そこで生まれた数え切れないほどの作品も失われた世界に、なぜかその名前だけが残されている。
その音の波に身を委ねながら、そんな九つの文字の前に立ってみたい。
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本記事には『Horizon Forbidden West: 焦熱の海辺』の舞台・情景に関する軽微なネタバレを含みます。
夢を背負った九文字
ハリウッド。その名を聞いて、僕たちは何を思い浮かべるだろう。映画、スクリーンを彩る眩しいスター、きらびやかな世界。いつか自分もそこへ辿り着きたいと、多くの人々が夢を抱いてこの街を目指してきた。山肌にそびえ立つ巨大な「HOLLYWOOD」の文字は、そんな夢の街を象徴するアイコンとしてあまりにも有名だ。
ただ、あの文字は最初から「映画の街」を象徴するために作られたわけではない。1923年に設置された当時の文字は「HOLLYWOODLAND」。もともとは分譲住宅地を宣伝するための巨大な屋外広告に過ぎず、恒久的に残すことなど想定されていなかった。
しかし、ハリウッドが映画産業とともに発展していくにつれ、文字が持つ意味合いも変わっていく。ただの看板は、いつしか「ハリウッド」そのものを象徴する存在になった。長い歴史の中で文字は老朽化し、一部が崩れ落ちたこともあった。それでも修復が重ねられ、1978年には現在のサインへと建て替えられた。いつ撤去されてもおかしくなかった広告が、人々にとって「残すべきもの」へと変わっていったのだ。
あの白い文字を見上げた人の数だけ、そこには違ったハリウッドがあったはずだ。映画を愛した人。スターに憧れた人。自分の夢を重ねた人。
そして何より、ハリウッドは数え切れないほどの映像作品を生み出してきた。
それらの作品は世界中へ渡り、そこで生まれた物語や登場人物は、ハリウッドという名前を知らない人にまで届いていった。
あの九文字の向こうには、数え切れないほどの熱と夢、そして物語があった。

アタシは言うほど映画は見てないけど、ハリウッドってやっぱり知ってるもん。ハリウッド映画はみんな知ってるよね。
九文字の向こうに見えるもの
それから、途方もない時間が流れた。
『Horizon』の世界では、僕たちが知る文明はすでに一度終わりを迎えている。都市も道路も、人々が紡いできた文化すらも、その多くが大地へと還っていった。新たな人類が、機械獣のひしめく大地の上で生きている時代。主人公アーロイは、かつてロサンゼルスと呼ばれた土地を歩く。

そこに、あの文字は残っている。
遠くから眺めれば、山肌に巨大な白い文字が並んでいる。しかし足元まで近づいてみると、印象はまるで違う。
表面はひどく錆びつき、無数の穴が開いている。文字を形作っていた白いパネルはところどころ剥がれ落ち、奥からは痛々しいほどに骨組みが露出している。裏側に回れば、それが錆びついた鉄骨に支えられただけの巨大な人工構造物であることがよく分かるだろう。
そして、文字の足元からは植物が力強く生い茂っている。人間が山の上に置いた巨大な人工物を、草木が少しずつ、しかし確実に飲み込んでいる。かつて人工物の中に「自然」が配置されていた僕たちの世界とは逆だ。ここでは圧倒的な自然の中に、人間の作ったものがしがみつくように残されている。

近くで見れば、もうボロボロだ。
それでも、少し離れて山を見上げると、僕たちにはその形が分かる。
HOLLYWOOD
僕たちがこの九文字を見るとき、その向こうには文字以上のものが見えている。
映画がある。
スターがいる。
スクリーンの中には、数え切れないほどの物語がある。
それは、僕たちがハリウッドという場所を知っているからだ。
アーロイが見ているものと、画面の前にいる僕たちが見ているものは、同じ山肌に残された同じ九文字だ。
けれど僕たちの目には、もうこの世界には存在しないハリウッドの記憶までが二重写しになって見えてしまう。
ハリウッドは永遠になった
では、この朽ちた世界に取り残された「ハリウッド」とは、結局のところ何なのだろう。
もう映画のカメラが回ることはないし、新しいスターが誕生することもない。夢を抱いた若者が、希望に胸を膨らませてこの場所を目指すこともない。 そして何より、この街が生み出してきた数え切れないほどの映像作品すら、ここにはもう何一つ残っていないのだ。
僕たちが知る、あの熱狂に満ちた華やかなハリウッドは、もう世界のどこにもない。 残されたのは、ただ「HOLLYWOOD」という名前。それだけだ。
なんとも皮肉で、不思議な話だと思う。 あの文字は本来、とうの昔に朽ち果てていてもおかしくなかった。一時的な広告看板として生まれ、雨風に晒されながらも、人々がわざわざ資金を集め、建て替えてまで守り抜いてきたものだ。 人類が滅亡の瞬間までこのサインを未来へ託そうとしていたかは分からない。けれど、これほど長く愛され続けた象徴を見上げていると、「ここで生まれた夢や作品が、どうか未来へ続いてほしい」という人々の切実な祈りが宿っていたように思えてならない。
映画が作られ続ける未来。 新しいスターが輝き続ける未来。 そして、新たな物語が生まれ続ける未来。
もし「ハリウッドは永遠だ」と誰かが言ったなら、それはきっと、そうした眩しい未来を指していたはずだ。 しかし、『Horizon』の世界で待っていた「永遠」は違った。 映画も、人も、数々の名作も、すべてが失われた。 それなのに、「HOLLYWOOD」という空っぽの名前だけが残ってしまった。
ハリウッドは永遠になったのだ。 かつて人々が夢見たものとはまるで違う、残酷なほど静寂に包まれた形で。

あの景色を見上げていると、どうしようもなく胸が締め付けられる。 ハリウッドをハリウッドたらしめていた「中身」は、すべて失われてしまった。それなのに、かつての栄華を指し示す名前だけが、今も緑の山肌にぽつんと取り残されている。
中身は消え去り、名前だけが永遠を生きている。 あの景色がこれほどまでに寂しく美しいのは、きっとそのせいなのだ。

だって、残ってないんだよね。映画も、スターも、そこで作られた物語も。ハリウッドって聞いてアタシたちが思い浮かべるものは、全部なくなってる。そうなると寂しいもんだしー・・・。
なぜ、この景色に『You Already Did』なのか
この朽ちたハリウッドサインを見上げたとき、僕の頭の中で自然と鳴り出したのは、Russian Circlesの『You Already Did』だった。 それは決して、「寂しい景色には寂しい音楽が似合う」といった単純な理由からではない。この曲が内包する時間のうねりが、ハリウッドという場所が辿った数奇な運命と、痛いほど重なって聞こえるのだ。
『You Already Did』の前半は、めまぐるしいほどに表情を変えていく。 優雅で美しい旋律が響いたかと思えば、突如として地を這うような轟音が押し寄せ、やがて不穏な気配が空間を支配する。ひとつの感情に縛られることなく、音は次々とその姿を変容させていく。 そのうねりの中にいると、まるで数え切れないほどの映画の断片を、連続して見せられているような錯覚に陥る。
喜び、悲しみ、恐怖、そして興奮。
かつてハリウッドが生み出してきた無数の物語のように、この曲もまた、ひとつの枠には収まらない熱量を帯びている。 しかし、その濃密で嵐のような時間は永遠には続かない。感情をぶつけ合っていた音の波は、やがて潮が引くように、嘘のように静まり返っていく。
そのあとに現れるのは、それまでの熱狂が幻だったかのように、ただ柔らかく空間へと溶けていく静謐な音色だ。
数え切れないほどの感情があり、作品があった。 けれど、そのすべては一陣の風のように過ぎ去り、あとに残ったのは静かな余韻だけ。
この移り変わりが、僕にはあのハリウッドサインの姿と完全に重なって見えるのだ。 かつて世界中を熱狂させた無数の映像作品は、もうこの世界には何一つ残っていない。それでも山肌には、そのすべてを象徴していた名前だけが、静かに立ち尽くしている。
轟音が過ぎ去ったあとに残る、静かな余韻。 作品が失われたあとに残る、「HOLLYWOOD」という空っぽの名前。
だからこそ僕は、この寂寥たる景色に『You Already Did』を重ねずにはいられなかった。

『You Already Did』がさ、あれだけいろんな表情を見せたあと、最後はスーッと静かになっていくじゃん。あそこまで聴いてからこの景色見ると……なんか、すごい分かるよ。
音が過ぎ去ったあと
Russian Circlesは、ギター、ベース、ドラムによるインストゥルメンタル・トリオだ。『You Already Did』は、2006年に発表された彼らのデビューアルバム『Enter』に収録されている。
Russian Circlesという名前から僕がまず思い浮かべるのは、重厚で力強いバンドサウンドだ。だが、『You Already Did』にはその印象だけでは語れない静けさがある。 この曲で僕が特に惹かれるのは、激しい時間を通り抜けたあとに訪れる空気感だ。
不意に静かになったからといって、何もなくなるわけではない。 音はまだそこにある。強く主張するのではなく、空間の中へゆっくりと溶け込むように広がりながら残っている。 それはまるで、激しい雨が止んだあと、濡れたアスファルトの景色だけが静かに残っているような感覚に近い。
この音を聴いていると、ハリウッドサインを見たときに感じた寂しさが綺麗に消え去るわけではないし、失われたものが戻ってくるわけでもない。ただ、その寂しさをそのまま静かに眺めていられるようになる。
「ここには、確かに何かがあった。」 そう思いながら、もう少しだけ、あの朽ちた景色の前に立っていたくなるのだ。
あの景色を、さらに深く味わうために ― ゼンハイザー HD599
『You Already Did』とハリウッドサインの情景をより深く味わうなら、音の迫力だけではなく、その音が広がり、そして消えていくまでの時間まで丁寧に聴いてみたい。 今回のような楽曲では、鳴っている音そのものと同じくらい、音と音の間に残る「空間」も景色を作る大切な要素になる。
開放型ならではの自然な広がり
HD599の開放型らしい抜けの良さは、『You Already Did』後半の音が空間へ広がっていく感覚と非常に相性がいい。音を頭の中だけに閉じ込めず、その向こう側にまで空間が続いているように感じられるため、植物に覆われた広大なハリウッドの景色とも自然にリンクしていく。
中域を自然に追えるバランス
曲の前半では、ギターを中心に音の表情が次々と移り変わる。その変化を派手に誇張するのではなく、一つずつ丁寧に追いながら聴ける自然なバランスが、今回の「いくつもの映画を眺めているような感覚」をしっかりと支えてくれる。
景色の前に留まり続けるための装着感
『You Already Did』を一度聴いて終わるのではなく、そのままRussian Circlesを流しながらHorizonの世界を歩く。あるいはコントローラーを置き、ただあの文字を眺める。長時間つけていても疲れにくい優しい装着感は、そうした世界に深く留まる時間を邪魔しない。
HD599は、この曲を全く別の音楽へ変えてしまうためのツールではない。『You Already Did』が持つ余韻と、ハリウッドサインの前に流れている静かな時間を、もう少しだけ長く感じるための環境として使いたいヘッドホンだ。
香り|ベチバー ― 夢の跡に根を張る
もし、かつての「ハリウッド」を香りで表現するなら、もっと華やかで甘い香りを選んでいたかもしれない。 きらびやかな世界、スクリーンで微笑むスター、着飾った人々が集まる夜。そんな場所には、フローラルのような明るい香りがよく似合う。
しかし、アーロイが立っているあのハリウッドは違う。 そこにはもう人々の姿はない。白かった文字は赤茶け、穴が開き、痛々しい骨組みを晒している。そして、その周囲には無数の植物が生い茂っている。 人間が作ったものは、ゆっくりと朽ちていく。その傍らで、植物は静かに大地へ根を張っている。
今回、この景色に合わせたい香りは「ベチバー」だ。 ベチバーはイネ科の植物の根から抽出される精油で、湿った土や古い木、深く張った根を思わせる重厚な香りを持つ。華やかだった頃のハリウッドを再現する香りではなく、人間が去ったあとに自然が戻ってきた「今のハリウッド」を感じるための香りだ。

ベチバー!アタシ最近アロマオイル買ったよ。この香りは確かにアーロイ達がいる世界のハリウッドって感じするかも!
ベチバーの香りを感じながら、もう一度あの景色を思い浮かべてみる。 地上には、人間が遺した巨大な文字がある。その足元では、植物が力強く根を張っている。 『You Already Did』の静かな音が空間へ広がっていく。植物もまた、誰に見せるわけでもなく、静かに大地へと広がっていく。 どちらも決して派手ではない。それでも、確かにそこに残り続けている。
香りを試すなら、使用するディフューザーや精油の案内を確認しつつ、まずは少量からにしてほしい。土や根を思わせる香りを、部屋の隅でほんのり感じる程度で十分だ。
『You Already Did』を流しながら、植物に覆われたあの白い文字を思い浮かべる。 目と耳だけだった景色に、少しだけ大地の匂いが加わる。それだけで、『Horizon』のあのハリウッドへ、もう一歩深く踏み込める気がする。
おわりに
もう一度、画面越しにあの山を見上げてみる。
足元まで近づけば、表面はひどく錆びつき、抜け落ちたパネルの隙間からは冷たい鉄の骨組みが覗いている。裏側に回れば、それが人間の手で作られた無機質な巨大構造物に過ぎないことがよく分かるだろう。 そして周囲には草木が力強く生い茂り、人間が遺した文字の輪郭を、ゆっくりと、優しく覆い隠そうとしている。

かつてこの場所にあったものは、もう何一つ残っていない。 映画も、スターも、夢を抱いてこの街を目指した人々も。 そして、この場所から生み出された数え切れないほどの物語も。
空間を満たしていた『You Already Did』の静かな余韻も、やがて完全に空気へと溶けて消えていく。
それでも少しだけ距離を置き、もう一度山肌を見つめる。 緑に覆われた斜面に、不格好な白い文字が並んでいる。
それが本来、何を意味していたのか。 あの場所から、どれほど多くの熱狂と物語が生まれたのか。 すべての記憶が失われた世界に、空っぽの名前だけがポツンと取り残されている。
HOLLYWOOD

こういうの見つけると、ゲームで廃墟巡りしたくなるんだよなぁ……。
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